北九州スマートコミュニティ学生レポート①

学生ブログ 2015年2月19日 postedkimura 北九州スマートコミュニティ学生レポート① はコメントを受け付けていません

北九州市スマートコミュニティ視察に参加して

小野 美和

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北九州市のイノベーション力の源泉はどこから来ているのだろうか?
この疑問に対する何らかの答えを少しでも掴み取ることが出来ればと思い、北九州市スマートコミュニティ視察プログラムに参加させていただいた。

北九州市では1960年代から公害対策に取り組み、環境技術を蓄積してきた。そして近年では水道整備事業を水インフラ輸出へと発展させており、環境と経済とを両立させる新しいビジネスモデルとして高く評価されている。またゼロ・エミッションを目指すエコタウン事業では、国内でも集積規模は傑出しており、今もなお進化し続けている。いずれも特徴的なのは「官」が主導しているという点である。この点については視察前に書物等で把握していたものの、果たして他の自治体とは何が違うのだろうか?ということが疑問であった。

我々は環境ミュージアムへ訪問し、NPO法人「里山を考える会」の小林氏にご案内いただいた。小林氏の解説と、当時の様子を伝える様々な展示物から、北九州市の歴史をよく知ることが出来た。北九州市は1901年に官営八幡製鉄所が操業を開始し、四大工業地帯の一つとして繁栄してきたが、1960年代に大気汚染、粉塵、水質汚濁など深刻な産業公害をもたらした。その後、市民の地道かつ熱心な活動から始まった公害対策は、「産・官・学・民」の4者連携で深刻な環境問題に全力で立ち向かい、ついに克服することができたのである。“大腸菌すら棲めない死の海”と呼ばれた海には100種類以上の魚が戻り、ばいじんによる“七色の煙”と呼ばれた空が、今では“星空の街”に選定されるまでとなった。「民」の力が「官」を動かし、さらに「産」「学」連携で課題解決につなげていったのである。

その後、1989年より廃棄物処分場として埋め立てられた広大な響灘埋立地の有効利用について検討されてきたが、産官学研究会の中で、工業都市として培ってきた技術と、深刻な公害問題を克服したノウハウを活かして新たな環境産業を展開するというアイディアが出てきた。それがエコタウンである。そして1997年より通産省の承認を得て「北九州エコタウン事業」を開始、すでに十分な準備が進んでいたことにより第1号として承認された(他には川崎市、長野県飯田市、岐阜県が同時に承認)。なお、エコタウンは平成25年度で全国に合計24自治体、97事業者ある。

「北九州エコタウン事業」は、「ゼロ・エミッション構想」(ある産業から出る廃棄物を他の産業の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにすることを目指す構想)を推進し、環境保全政策と産業振興政策を統合した取り組みである。北九州学術研究都市との連携により、環境分野の「教育・基礎研究」から「技術・実証研究」「事業化」に至るまでの事業を展開している。北九州学術研究都市は、九州工業大学を中心として理工系の国・公・私立大学や研究機関が同一のキャンパスに集積しており、特に「環境技術」と「情報技術」を中心に、産学連携での研究が行われている。

書籍「北九州の底ぢから」(石風社,2014)によると、北九州市は、大気汚染・水質汚濁防止に向けて、全国でもっとも厳しい独自の基準「北九州基準」を定めている。一時は産業界からコスト増を懸念して反発もあったが、厳しい基準をクリアするために新しい技術が産まれ、今では最先端の技術を海外へ輸出するまでに至っている。「官」が主導してルールを形成し、ルールをクリアするために「産」「学」が連携してイノベーション(環境技術)を産み出し、世界レベルでの競争力向上につなげるという好循環が生まれているのである。また「官」は基準をつくるだけではなく、市長が旗振り役となって「産・官・学・民」の4者連携を主導し、トップダウンでイノベーション創出を支援している。

環境ミュージアム訪問後は、北九州市環境局 環境未来都市推進室スマートコミュニティ担当係長の須山氏のご案内で、スマートコミュニティの地域節電所にて電力需給を制御する設備を見せていただいた。ここでは、天然ガスコージェネレーションシステムと、太陽光発電、風力発電、蓄電システムなどの複数の電源を組み合わせて利用できるよう、需要・発電予測、需給計画、発電制御などの機能を果たしている。需給状況に応じて価格を変動させ、需要の調整を図るダイナミックプライシングの実証事業を国内初で実施しており、利用者側でも電力の利用状況をリアルタイムに把握できるようになっている。ここでも様々な企業、大学、市民がプロジェクトに参加している。

イノベーションは、企業または大学等の研究機関単独で産まれるものもあるが、こと北九州市においては、異なるセクター間で連携する力、つまり「つながり力」がキーであるということを感じた。もともと北九州はTOTO、安川電機、新日鐵住金など世界で活躍する名だたる製造業企業が本拠地としており、ものづくりの拠点として発展してきた。北九州市は、企業の技術力を生かして環境都市として世界をリードする、という大きなビジョンを掲げ、異なるセクター間の連携を前提として様々な施策を打ち出している。おそらく新しい施策を実行する際には、周囲の反発を受けることも少なくないと思うが、それでも市役所の方々は強い意思を持って推進していく力をお持ちなのだろうと思う。さらに、北九州市には、「産・官・学・民」の4者が連携し、それぞれが同じビジョンに向かっていることが最大の強みではないかと感じた。

当初、北九州市は、「官」の主導によりイノベーションを推進してきたと捉えていたが、視察を通じて、実際には、「官」の主導のもと「産・官・学・民」の4者連携によるものだったことが分かった。一連の視察ツアーでは、NGO団体や市役所の方々がとても丁寧に説明してくださり、説明の端々から、常に市役所、企業、大学、住民と深い連携をされていることを感じた。今後も、ものづくりの拠点、イノベーション創出の拠点として北九州市の活動に注目していきたい。

最後に、お忙しいなかお時間いただき丁寧にご説明くださった北九州市の皆様、そしてこのような機会をつくってくださった一橋大学の先生方に深く感謝いたします。

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