【出張報告】ロンドン編(木村)
シンポジウムがおわってすぐ、2月28日に日本を出発し、3月5日までロンドンに滞在して、クリエイティブ産業政策に関する調査を行いました。この政策は、1997年のブレア政権の発足とともに開始され、2007年から2010年までのブラウン政権期までには、イノベーション政策として機能するようになっています。
簡単にこの政策を説明するなら、科学技術政策と文化政策の溝を埋め、<機能>と<表現>の両立、協働を促進する政策です。この政策を大きく前進させたのは、デザイン、デザイナーやデザイン界でしたが、この政策を通してイギリスのクリエイティブ産業政策が推進しようとしているのは、<新しい産業革命>としてのデジタル革命です。クリエイティブ産業といえば、アートや芸術、文化産業などを思い浮かべられることが多いように思われますが、どちらかというと、その周縁、こうした分野と他の産業との間に位置付けられるデザインや建築、ファッションや広告を中心としており、最近のイギリスではテクノロジーなしには語り得ない映画やゲームにとくに力を入れ始めている印象を受けます。
このように書くと、今度はコンテンツ産業やその政策ではないか、と思われるかもしれませんが、クリエイティブ産業政策は、コンテンツというソフトだけを切り離してしまうことを問題意識として始まった政策です。コンテンツがソフトであるなら、メディアというハードをともに、総合的かつ統合的に考えることが、クリエイティブ産業政策のもっとも重要なポイントです。ではなぜメディアとコンテンツ、ハードとソフト、科学とアート、テクノロジーと芸術、経済と文化は切り離され、ときに「対比」の関係にすらおかれてしまうのか。この問いに答えようとしてはじまったのがイギリスのクリエイティブ産業政策でした。
今回の出張では、この対比される分野や考え方の溝を埋めたり、協働、融合による新しい力について研究を行っている研究者、政府と産業をつなぐ、クリエイティブ産業評議会(Creative Industries Council)の創始メンバー、クリエイティブ産業政策のための科学的エビデンスとしての研究を行う研究者、らにインタビューを行いました。
「デザインエンジニアリング(Design + Engineering)」や「リテイルテインメント(Retail+Entertainment)」など、いま、イギリスが推進しようとしていることは、複数の産業にまたがったり、大学でいえば、複数の分野にまたがる研究や教育を、それぞれのディシプリンや文化、規則などを踏まえた上で、いかに統合し、実践するか、ということです。この政策のなかでも、大きな存在感を示している企業が、ダイソンで、デザインとエンジニアリングなど、「二刀流」が同時に求められるようになってきたこと、本来は一体化していたはずであるにもかかわらず、分業化されてしまった二つのことを総合的かつ統合的に考え、実践することの意義については、間もなく発売される一橋ビジネスレビューでも取り上げられます。
研究としては、まだまだ(イギリスですら)マイノリティだということでしたが、だからこそ、共同研究の可能性を模索できたり、非常に有意義な出張となりました。彼らへのインタビューは、じつは、イノベーションマネジメント政策プログラムのマネジメントにも示唆を得る目的がありました。それは、今回インタビューを行った方々のうち、大学に所属する研究者は、「政策のための科学」に似たプログラムの一員でもあるからです。参考に成った部分、実践できそうな良いことは、これから取り入れながら、プログラムの充実を目指したいと思います。