【スイス】江藤先生の出張報告
2015年3月9日~13日に出張したスイスにおける調査内容です。
*毎週金曜日の午後に、全3回に分けて、更新します。
スイス政府関係者との面会
SECO ローゼンベルガー氏(Mr. Felix Rosenberger)
Federal Department of Economic Affairs,Education and Research EAER/State Secretariat for Economic Affairs SECO/Bilateral Economic Relations, Asia / Oceania (BWAO)/Deputy Head Asia / Oceania , Adviser on East Asia
ローゼンベルガー氏とは、スイスの首都ベルンを訪問し、ベルン駅近くのレストランでお話を伺った。
ベルンはスイスの中では第五番目に人口が多い都市で、旧市街の全体が世界遺産という町だ。写真の時計台がベルン旧市街の入り口のシンボルだ。
今回の調査内容のメインはスイスの兵役システムについてだ。
兵役はスイス男子の国民としての義務である。徴兵検査を受け、新兵学校に入学し、兵役訓練を受ける。退役年齢は、階級によって異なる。ただし、良心的兵役拒否[1]は、認められる。女性は任意である。ちなみに、毎年の兵役には男性25000人に対し、女性の参加は数百人程度である。
まず、満18歳の年に徴兵検査があり、兵役の適否を身体、身上にわたって調べる検査を受けることを義務付けられている。そして、兵役に適すると見なされた者は新兵学校に通うことを義務付けられている。
新兵学校の教育課程は、下記の3過程から成り立ち、期間は、18~21週間である。
- 一般教養:3~7週間
- 役割・機能についての基礎教育:7~10週間
- 部隊・集団としての基礎教育:5~8週間
新兵学校卒業後は、退役まで数年毎に補充講習を受け、18歳から数えて、計260日間の兵役につかなければならない。士官等の位に就くには、さらに、教育と訓練を受けなければならない。
兵役を不適と見なされた者は兵役は免除され、代わりに身体的、精神的能力等に応じて非軍事役務である民間防衛隊[2]に参加する。この制度は1992年に創設され、1996年に発効した。ちなみに、現在兵役に参加する男性は75%程度で、残りがボランティアや免除申請をしている。
退役年齢は下級下士官クラス以下で30歳。例外的な者でも、長くて34歳までとなり、上級下士官でも長くて36歳までである。なお、下級尉官となると36歳まで、上級下士官の一部、上級尉官は42歳まで、左官、士官は50歳までとなっている。
徴兵検査において、各個人ごとの適性検査が行われ、ある程度の専門振り分けが行われる。コンピュータ技師、通信技師、車両運転、武器のメンテナンスなど、それぞれの特性に合わせた専門知識を訓練される。この専門性の判定はテストなどによって行われ、最終的に幹部との面談で決定されるが、テストでの判定は本人の専門性や希望に合わないことも多く、幹部との面談において変更を強く希望すれば、変更されることもある。
継続教育では、この専門技術の継続的取得と実際の戦闘訓練に多くの時間が割かれており、クラススタディは多くない。交渉力などに特化した講義があるわけではない。
兵役によるネットワーク構築は、現在でも高い価値があるといえる。スイス人は自分の州から出ることが少ないので、このような機会で他の州の人とのネットワークができることは大きい。また、軍の人材は連邦政府や州政府との人事交流も多いので、そのような役人とのネットワークも構築できる。
このインタビューの結果、当初想定したほど、兵役中における交渉テクニックや組織マネジメントに関する座学は多くないことが分かった。それよりも重要なことは、個人個人の適正に合わせた兵役教育が行われているということであり、これはスイスの人材育成システム全体に共通する基本姿勢のようだ
[1] 宗教的、自己の道徳的理由から、兵役を拒否すること。その際にその理由の裏づけとなる証明が必要。それが、認められれば、兵役は免除され、代わりに社会奉仕(病院、老人ホーム、身体障害者ホーム等で手助けをする)を行う。兵役・社会奉仕・民間防衛のいずれも行わない場合、所得税の対象となる所得額の3%を収めなければならない(最低額として年間400CHF)。ただし、障害者で、障害の度合いが40%以上の場合は免除となる。
[2] 戦争、自然災害、テロ攻撃等の際に民間人を守る。(軍人との相違点:武器を持たない。)その他の時は、消防団、警察等の手助けをする。