【出張報告】夕張におけるズリの再利用事業
6月18日、19日と、江藤、木村で、北海道の夕張市を訪れました。夕張といえば、夕張メロン、財政破綻した市、映画の街、さまざまなイメージがあると思いますが、今回の目的は、ズリの再利用事業についての調査です。
炭鉱の遺産、ズリ
夕張には、炭鉱から出た、選炭後の廃棄物の山(ズリ山)が、分かっているだけで、66ヶ所あります。このうち、16ヶ所は、炭鉱を運営していた企業から市に移管され、いまは、市の財産となっています。
このズリ山のうち、最大のものが、市内の高松地区にありますが、これは昭和28年から52年にかけて蓄積されたもので、2,200万立方メートル、約三億トンの量があります。このズリ山は、老朽化で排水設備が詰まり、上流側三ヶ所にため池ができる状態となっていました。さらに、平成25年春の融雪水で、ズリの一部が決壊し、そばの河川を塞き止め、結果として下流側に鉄砲水を発生させました。この災害により、緊急の課題となったのが、ズリ山の治水問題です。
鉄砲水が生じた河川の治水修復工事は、国土交通省の予算で対応することとなりました。しかし、同様の災害が発生しないように、ズリ山を処理する責任は、夕張市にある、ということが明確になりました。
危機からのストーリー
このズリ山を除去し、山林に戻すためには、5億円の資金が必要と試算されました。しかし、それは、財政が破綻している夕張市には、支出できる額ではありませんでした。ちなみに、いま、夕張市の市役所の人員は、破綻前の1/3となり、職員のうち、三割程度に当たる23人が、道や近隣地方自治体からの出向者となっています。全国的にも注目された、あの市長の月給が20万円に達しないような状況で、市に、財政的余裕は全くありません。
このような状況の中、全国を見渡すと、九州など、ズリ山から残炭を採取し、販売することによって、ズリ山の処理を行う事業があり、同様の事業をこのズリ山においても行えないか、ということが検討されるようになりました。
幸いなことに、このズリ山は、夕張における炭鉱開発初期のものだったので、残炭の含有率が高く、3ヶ所をテストした結果、いずれの場所でも、約三割の石炭が回収できるという結果がでました。(このテストには、一ヶ所辺り100万円の費用が必要だったそうです、驚きました。結果的には、事業者が負担することとなったので、市の支出とはなっていません)
回収炭は低品位炭ではあるものの、東日本大震災後の、石炭火力の需要が急増するなか、調整用石炭としての用途が長期にわたって存在する見込みとなり、東京の商社が、この残炭を買い取ってくれることになりました。
この買い取り価格と10年間の事業計画から収益性を計算し、総事業費16,500万円という、採算のとれる規模を算出し、この資金で建設可能な、年間9万トンを処理できる施設を作る計画を作り上げた。16,500万円のうち9,000万円が、施設の中心となる水選炭施設のための費用です。
水選炭施設とは、ズリを水と混ぜ、撹拌した後に沈殿槽で分離することで、相対的に軽い石炭を取り出す施設のことを言います。この技術自体は、既に開発されていたものですが、こういったズリの活用に関しては、北海道大学や民間会社からのアドバイスなどを受けることができたようです。なお、沈殿した残り七割の残留物はズリ山に戻され、将来的に緑化の土台となっていくことになっています。
夕張市の工夫と政策
ところが、夕張市には、この施設を建設し、運営する資金的能力はなかったので、事業全体を運営できる民間企業を探します。初期投資である16,500万円のうち11,000万円は、夕張市内に支店を持つ北洋銀行が無担保で融資することになりました。この無担保融資のお陰で、総務省の地域経済循環創造事業から、5,000万円の補助金を獲得することが可能となります
民間事業者の引き受け先を見つけることには、苦労したそうです。当初、北海道内で、小規模ながら同様の事業を行っていた企業に話を持ちかけたそうですが、もっと大きな初期投資がなければ引き受けられないと言われます。
結果的には、地元の土木工事会社が新規事業への進出として引き受けることになりました。同社は、地域の小さな土木事業者であり、億を越える事業への進出は、社としても挑戦的な試みでしたが、土木事業に関しては、設備も有していることから、プラント設備を自ら建設し、運営するというビジネスモデルを実現することができたのです。
夕張市は、実質的には、この事業のアレンジメントを行ったのですが、事業に対する財政支出は全く行っていません。逆に、事業引き受け業者から、市有地の賃借料とズリ山の採掘料を獲得することができる上に、採掘条件としてズリ山の平坦化による、災害の防止と将来的な緑化作業を義務付けることで、本来であれば公共工事として夕張市が自ら行うべき事業を民間企業に無償で行わせることができています。
夕張の課題
さらにこの事業では15人程度の雇用の創出も実現しています。といっても、募集に対して市、民の応募状況は芳しくありません。それは、既に人口減少トレンドがピークを過ぎ、現在夕張市に居住する労働人口は、メロン農家や公務員など、新たな雇用場所を求めていない人が大半だからです。
施設は取水ルートの整備、水選炭プラントの建設、そこから貯炭場までの運搬炉整備で構成され、今年の雪解けを待って4月に工事を開始しました。この雪のせいもあり、プラントの稼働期間は一年のうち9ヶ月程度になります。ちなみに、この雪のために、太陽光発電なども、採算がとりにくいといいます。
夕張の未来
本計画では、当面作り出した石炭は、民間企業の買い取りとなります。しかし、将来的にはズリ山の近辺に、石炭火力発電所を建設し、そこで電力に転換して、地域電化に活用できないか、という構想もあるそうです。
夕張には夕張メロンの温室も多く、現在はボイラーや系統電力を用いている暖房エネルギーを自己調達できるようになると、さらに地域発展に大きく貢献できることが期待できると思います。ただし、夕張市には、地下メタンガス坑開発の計画もあります。そこにも、発電所建設計画が含まれているため、現在のところ具体化には至っていません。
今年の8月には施設が稼働するので、当初数年の事業で、この事業の成否が確認できるでしょう。うまくいけば、近くに、水選炭施設を増設する場所があることも確認されていて、事業の拡大可能性もあります。
この事業は、東日本大震災による石炭需要の発生と、水害への対策の緊急性という、二つの災害が大きな推進エンジンとなった面はありますが、うまく採算に乗れば、市にとっても、事業者にとっても利益のある事業構造であり、将来的な事業拡大の余地も大きい、夢のある事業と言えます。