[2017.1.24-25開催] 第1回科学技術イノベーション政策のための科学オープンフォーラム報告 No.4
最初の話題提供者は東京大学の元橋教授です。学術論文データ、特許情報、経済データを接続して、インプットから最終アウトプットまでのイノベーションプロセス全体像をミクロマクロの両面から分析するという試みの発表です。一通りのデータ接続がおわり、分析途中ということですが、いくつか結果がでてました。特許を介したアカデミアと企業との連携は、2000年代に高まったが、2000年代後半で以降は低下している。アカデミック論文の生産性は上がっており、企業のアカデミック特許の引用は増えているが、企業の特許や論文の成果は下がっているなどです。公的研究資金の産業インパクト分析をする上で、論文、特許情報、経済成果(企業)をつなげるデータベースは重要です。
2つめの話題はNISTEPの新村研究官による研究開発型大学発ベンチャーの研究発表です。特許の出願している大学発ベンチャーを大学発研究開発型ベンチャーと定義し、特許の発明者情報をたどり、その発明者に対する公的支援をみることによって、公的支援のベンチャー創出への効果を把握しようとする研究です。興味深いです。大学発ベンチャーの中では研究開発型は29%、特許の出願数は2000年以降急増していました。鶴岡市での産官学の共同によるベンチャー育成事例の分析に適用していました。研究者情報まで接続することによって、競争的研究資金の効果を理解することができるのはおもしろいです。
次はNISTEPの川島氏の発表。JREC-INを使った研究者の求人市場の分析です。全体として、大学の求人は増加しており、これは公募形態による採用が増えていることを示しています。また国立大学の方が一大学あたりの求人はが多いことも示されています。さらに、近年「任期ありの常勤」の求人が増えており、その傾向は、研究大学、生物学のぶんや、若い研究者において特に顕著に見られます。よく言われることではありますが、データで裏付けられると説得的です。
4つ目は北海道大学の和田氏による発表。北海道大学における博士人材の育成・輩出ための分析です。日本全体では大学入学者の中では博士課程に行くのはわずか1%です。日本は中国に次いで少なく、近年も緩やかに減少しています。なぜ博士進学者が少ないのか。これまでの研究では、経済的支援と企業による雇用機会の問題ということになっていましたが、ツイッター分析や北大でのカスタマージャーニーマップによる学生の思考行動分析からは必ずしも経済的支援や雇用機会の問題ではなく、情報不足が大きそうだということでした。理系の学生の多くは、高校時代から修士までいくのは当たり前だけど、博士についてはイメージが湧かないし、メリットもわからないというのが実態のようでした。定量分析はこうした定性分析と組み合わせないと間違った政策対応になります。
最後は文科省の齋藤氏の発表。サイエンスマップの活用事例の紹介です。発表の中では印象に残ったのは、結局のところ判断基準がなければいくらデータがあってもだめだという点。国としてどっちの方向にいくべきかということ自体はデータ分析からは導かれない。方向性があってはじめて分析が生きてくるというのは、そのとおりだと思う。