2025年度「イノベーションと経営・経済・政策」⑤

授業 2025年6月11日 postedlijiarong 2025年度「イノベーションと経営・経済・政策」⑤ はコメントを受け付けていません

2025年6月11日、一橋大学大学院イノベーション研究センター主催のIMPPプログラムにおいて、軽部大教授による「イノベーションと経営・経済・政策」第5回講義が行われました。本講義では、「戦略論から見たイノベーション研究の分析視角と課題」と題し、企業経営や社会におけるイノベーションの本質と、その分析に求められる多角的視点について、理論的・実践的両面から幅広く論じられました。

講義の前半では、イノベーションを単なる「新規事業の創出」や「製品の開発」として捉えるのではなく、「既存の循環的経済活動から資源を切り離し、新たな活動に振り向けるプロセス」として再定義することの重要性が強調されました。軽部教授は、顧客の「リアルなお困りごと」への着目、競争力の源としての「かけがえのなさ」、そして「他力との結合」による新たな価値の創出こそが、現代における真のイノベーションであると説きました。

また、「事前合理性」と「事後合理性」という二つの合理性の視点を導入し、イノベーションの不確実性と協働性に焦点を当てながら、意思決定における「誤謬」と「失敗」の違い、そして失敗を許容する組織文化の必要性についても議論が展開されました。これらは、企業や政策立案者が新たな挑戦を恐れず、柔軟かつ持続的な学習を行う上で不可欠な条件であるとされました。

後半では、SDGs、ダイバーシティ、ジェンダー格差といった制度的文脈に根差した社会課題が企業のイノベーションとどのように交錯するのかというテーマに移り、日本社会における構造的限界と停滞の要因分析が行われました。さらに、イノベーションのプロセスにおいて「正当性」をいかに確立していくか、その社会的合意形成の困難さを乗り越える道筋についても、理論と実例を交えて解説されました。

講義最後のディスカッションでは、受講生がそれぞれの課題や問題関心について意見を交わしました。軽部教授は一つひとつの質問に丁寧に応答しながら、今後の研究構想において「時間軸」「行為主体」「価値の多義性」に対する感受性を磨くことの重要性を改めて強調しました。研究テーマの選定における視座の設定、制度・文化的背景との関係性の捉え方などについても熱のこもった対話が続き、講義全体が実り多い知的刺激の場となりました。


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