2025年度イノベーションと経営・経済・政策⑥

授業 2025年6月26日 postedlijiarong 2025年度イノベーションと経営・経済・政策⑥ はコメントを受け付けていません

2025年6月25日、「イノベーションと経営・経済・政策」第6回の講義が開催されました。本日の講義では、小泉秀人先生をお迎えし、「特許はイノベーションに何故必要か?」という問いを起点に、対話的な学びの時間が展開されました。授業冒頭、小泉先生は学生たちをいくつかのグループに分け、特許の意義について自由にディスカッションするよう促しました。各グループの活発な議論の結果、特許はまず模倣を抑止する役割を持つこと、また、技術やアイディアの正当性を示し、リスクを軽減する手段となることが挙げられました。さらに、特許を取得することで競争優位性を獲得しやすくなるほか、知的財産を教育的資源として活用できるという視点も共有されました。そのほか、研究開発への資金を呼び込む装置として、あるいは優秀な人材を惹きつける仕組みとしても、特許は重要な役割を果たすとの意見が出されました。学生たちは実社会における制度の意味について、改めて多角的に捉えるきっかけを得たようでした。

続いて、小泉先生は「特許と革新:経済史からの証拠」と題した講義を展開され、特許制度が果たしてイノベーションを促進するものなのか、それともむしろ阻害するのかという根本的な問いに対して、経済史的観点から多角的なアプローチを提示しました。19世紀から20世紀初頭の経済データをもとに、特許の制度設計が発明行動や市場構造にどのような影響を与えてきたのかが検討されました。

講義では、特許の存在しない場面においても革新が起きてきた事例に着目し、特許外での発明活動や、知識の非公式な共有ネットワークの機能についても紹介されました。特許による排他権がかえって情報流通を制限する側面や、逆に制度が知識の「見える化」と流通の加速に寄与する可能性についても論じられ、制度の功罪が丁寧に比較されました。その上で、特許プールという制度的仕組みにも触れ、19世紀のアメリカにおけるミシン産業の事例を通じて、プールの形成と解体が技術改良と市場競争にどのように影響したのかが検証されました。プール解散後に再び特許取得が増加し、革新も回復するという経緯から、制度設計が技術進化に与える実態的な影響が浮かび上がりました。

また、特許制度が知識の普及に与える影響として、「秘密保持から特許へ」「特許による測定性」「地理的普及への影響」の3つの観点が整理され、特に後者では途上国を中心に特許情報の流通が地域格差を緩和する可能性についても論じられました。さらに、特許制度の有無が実際のイノベーション量に与える影響について、万国博覧会の出展データを用いた実証研究が紹介されました。特許制度が存在する国ほど発明のリスクテイクが高まり、出展数や技術的多様性が増す傾向が示された一方で、制度の存在が必ずしも革新性の質を保証するものではない点も指摘されました。小泉先生は「合成スイス」と呼ばれる統計的手法を用いて、特許法のないスイスと特許制度を持つ他国との比較分析を提示されました。この比較からは、特許制度の導入により高頻度かつ高度なイノベーションが促進される一方で、特許がなくとも一定の技術発展は可能であるという、制度の多面的な効果が確認されました。

本講義では、特許制度をイノベーション促進の単純な「推進装置」として見るのではなく、その歴史的展開と経済的帰結を踏まえた上で、より柔軟かつ戦略的に活用すべきであるという示唆が、多くの具体例を通して共有されました。

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