2025年度「先端科学技術とイノベーション」②

授業 2025年9月24日 postedlijiarong 2025年度「先端科学技術とイノベーション」② はコメントを受け付けていません

2025年9月24日(水)、秋冬学期の「先端科学技術とイノベーション」第2回講義が、一橋講堂特別会議室にて開催されました。本講義はイノベーションマネジメント政策プログラム(IMPP)の一環として行われ、学生のみならず社会人や研究者も参加し、会場とオンラインをつなぐハイブリッド形式で実施されました。

今回のゲスト講師には、株式会社荏原製作所で長年にわたり半導体装置事業を率い、国際的な業界団体や学術分野でも活躍されてきた辻村学氏をお迎えしました。ご講演のテーマは「嵐の中の経営戦略 ― 装置メーカの眼でみた半導体業界の進化と歴史」。産業界の第一線で培われた知見と遠見、そして教育者としての温かいまなざしが融合した内容となりました。

辻村氏は冒頭、「半導体は“産業の米”から“頭脳”、そして“戦略物資”へと進化してきた」と語り、参加者に「TSMCやラピダスはご存じですか?」「生成AIを使っていますか?」と問いかけました。軽妙なユーモアを交えたやり取りに会場は和やかな雰囲気となり、同時に学生は半導体の持つ社会的意義を深く認識しました。

講演では、ムーアの法則やデナード則を振り返りながら、情報爆発・地政学リスク・GXといった最先端の課題を整理。さらに「食うか食われるか」のM&Aや特許トロールとの攻防を、経営現場の実体験として鮮やかに描写しました。とりわけ研究所解散という危機から「荏原式オープンイノベーション」を打ち出した事例は、挑戦と創造を結びつける戦略的思考の象徴として強い印象を与えました。

また、辻村氏の語り口には常に誠実さと温かさがあり、自らの失敗談を笑いに変えながら「企業は利益あってこそ社会に貢献できる。だから研究と開発を止めてはいけない」と強調しました。そこには、産業界で培った高い専門性と同時に、後進に対して「学びを途絶えさせてはならない」という強い責任感が込められていました。学生にとっては、理論だけでなく実務に根ざした知恵と人間的な指導の両方を体感できる貴重な時間となりました。

質疑応答では、知財戦略や将来の市場展望に関する質問が多く寄せられ、辻村氏は一つひとつに真摯かつ具体的に答え、時にユーモアを交えながらも後輩世代への励ましを忘れませんでした。会場全体が、学問と実務をつなぐ「生きた知識」の共有の場となりました。

本講義は、半導体産業の未来像を学ぶと同時に、第一線で活躍する経営者の専門的洞察と、後進への深い愛情に触れる機会となりました。産学の垣根を越えた知見共有の場として、本学の教育・研究活動の大きな意義を改めて示す貴重な機会となりました。

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