2025年度「先端科学技術とイノベーション」⑤

授業 2025年11月20日 postedlijiarong 2025年度「先端科学技術とイノベーション」⑤ はコメントを受け付けていません

2025年11月19日(水)、「先端科学技術とイノベーション」の第6回講義が一橋講堂1階特別会議室にて開催されました。今回は、元BionicM株式会社取締役COOであり、現在は個人事業主としてDeepTech領域の事業開発やスタートアップ支援に携わっていらっしゃる関口哲平氏をゲスト講師にお迎えしました。講義は対面とオンラインのハイブリッド形式で実施され、大学発DeepTechスタートアップの事業化に関する実務的な知見や、日本におけるエコシステムの現状について、具体的かつ現場感のあるご説明がなされました。

講義では、研究段階から製品化に至るまでの流れが紹介され、BionicMが開発した「Bionic Muscle Technology(BMT)」が人間の筋運動をどのように解析し、義足機能へ応用されているかについてご説明がありました。さらに、この技術をユーザーへ届けるための臨床評価や医療機関との協働、販売体制の構築など、事業として成立させるために必要なプロセスについても実例を交えてご紹介いただきました。関口氏はまた、「AI時代であっても技術だけで経営は自動化されません」「社会的価値を問い続ける姿勢と多様な専門人材こそが鍵です」と述べられ、東大IPCの「DeepTech Dive」やBeyond Next Venturesの「APOLLO」など国内の支援プログラムにも言及されました。資金、人材、規制といった基盤整備の重要性についても力強くお話しされました。

参加者が利用した質問BOXには、多岐にわたる実務的な質問が多数寄せられました。医療機器・義足分野に関しては、保険適用や医療費控除との関係、身体拡張技術をどの範囲まで医療機器として再定義すべきかといった制度面のほか、義足ユーザーの尊厳や感情面を設計へどう反映するか、随意性の確保方法、普及のためにどの説明手段が最も有効であったかなど、開発現場に根ざした質問が見られました。加えて、スタートアップで求められる成長スピードへの適応方法、VCのハンズオン支援による経営人材育成の可能性、人材の少ない組織での採用や育成の工夫、スタートアップ人材を目指すための研修・学習経験、さらには海外展開やクラウドファンディングを含む資金調達の実践など、幅広いテーマが取り上げられました。

関口氏はこれら一つひとつの質問に対し、パワード義足の技術背景や国内外の認証制度、採用戦略、VCとの協働事例などをご紹介しながら、豊富な実務経験に基づいた丁寧な回答を行われました。技術・制度・市場・人材が複雑に関わり合う領域であることが共有され、参加者にとって多角的な理解を深める貴重な機会となりました。

今回の講義は、大学発DeepTechスタートアップの事業化に必要な視点を制度・技術・ユーザー・人材・国際展開の側面から学ぶ機会となり、多様な質問と実践的な議論を通じて、研究成果を社会へつなぐプロセスの奥行きを改めて認識する講義となりました。


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