2025年度「先端科学技術とイノベーション」⑦

授業 2025年12月17日 postedlijiarong 2025年度「先端科学技術とイノベーション」⑦ はコメントを受け付けていません

2025年12月17日(水)、秋冬学期「先端科学技術とイノベーション」第7回講義が、一橋大学千代田キャンパスにて開催されました。今回は、国研水産研究・教育機構・水産大学校より松本浩文先生をお招きし、「沖合底びき網漁業におけるデジタル化の取組み—研究開発から社会実装、ベンチャー設立まで—」をテーマとした特別講義が行われました。

講義の冒頭では、日本の水産業が直面する現状が整理されました。魚介類の消費量や生産量が長期的に減少し続けていること、資源水準が厳しい状況にあること、漁業従事者の高齢化が進んでいることなど、多くの構造的課題が示されました。こうした背景から、漁獲現場の効率化や情報の高度化、さらには資源を持続的に利用する仕組みづくりが急務となっていることが強調されました。続いて松本先生より、実際の沖合底びき網漁業で進められているデジタル技術導入の取り組みが紹介されました。漁獲情報を自動で記録・共有するアプリケーション、船団内での通信ネットワーク構築、入港時刻を市場へ自動通知する仕組みなど、デジタル化が現場の作業負担を軽減し、情報の透明性と正確性を高める多数の事例が示されました。従来の経験や勘に頼りがちな作業がデータによって可視化されることで、漁業経営の判断材料が大幅に増えた点は、受講生にとって非常に興味深い内容でした。

さらに、これらの取り組みが具体的な成果に結びついていることも紹介されました。データの蓄積と共有が進んだことで、漁獲量や水揚金額の向上が確認され、現場の生産性が実際に改善しているとのことです。技術導入が単なる効率化にとどまらず、地域産業の収益性の強化や資源管理の高度化に貢献している点は、講義の中でも特に強い印象を残しました。また、松本先生が中心となって、水産研究・教育機構初の大学発ベンチャー「Digital Fisheries Lab.合同会社」を設立した経緯も語られました。研究者が現場の漁業者と対話しながら技術を改善し、社会実装へとつなげていくプロセスは、多くの学生にとって新鮮で刺激的でした。研究成果を実社会に届けるためには、現場のニーズを理解し、継続的な改善を伴う仕組みづくりが不可欠であることが、臨場感をもって伝えられました。

講義の終盤には、学生からデータの扱い方や測定精度、運用体制に関する具体的な質問が相次ぎました。松本先生は一つひとつの問いに丁寧かつ実務的な視点から回答され、質疑応答の時間は非常に充実したものとなりました。

本講義は、水産業という伝統的産業においても、デジタル技術やデータ活用が大きな革新を生み出し得ることを示す貴重な機会となりました。科学技術の社会実装や地域産業のイノベーションという観点から、多くの学生に新たな視点を提供する講義となりました。

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