2025年度「イノベーション研究方法論」④
2025年6月4日、一橋大学IMPPにて「イノベーション研究方法論」の第4回講義が開催され、吉岡(小林)徹先生により「定量的なイノベーション研究で必要な考え方と前処理」に関する講義が行われました。イノベーションという複雑かつ多面的な現象を、いかに定量的に捉えるかについて、丁寧な解説がなされました。
講義は「イノベーションが失敗したとき、組織はどう振る舞うべきか?」という問いから始まりました。この問いに対して、組織学習理論や従業員の認知に関する研究を紹介しながら、失敗に対する態度が次の成功にどのように影響するかを考察しました。特に、「建設的な議論ができる組織文化」が、失敗から学ぶ力を左右するという視点は、多くの学生に新鮮な気づきを与えました。その後、定量研究における因果推論の基本構造、すなわち「原因」と「結果」をつなぐメカニズムをどのように理論的に想定し、データに落とし込むかという3ステップ(理論仮定・操作化・検証)について具体的な例を交えて解説されました。たとえば、特許の重複度と技術革新の成果の関係、あるいは組織内の知識距離と新規性との相関など、実際のイノベーション研究に即したトピックを通じて、理論構築とデータ分析の接続方法が示されました。
また、内的妥当性・外的妥当性といった研究信頼性に関わる基本概念や、データ分析に潜むさまざまなバイアス(欠落変数バイアス、同時決定バイアス、測定誤差、セレクション・バイアスなど)についても、それぞれの特徴と対処法を系統的に整理。単なる技法の紹介に留まらず、データとの向き合い方そのものへの深い洞察が随所に盛り込まれていました。
後半の時間は、受講生による自主演習が行われました。講義で紹介された因果推論のフレームワークやバイアスへの理解を踏まえながら、各自が関心のあるテーマに即して因果関係モデルの構想や仮説の検討、指標の定量化に取り組みました。それぞれの問題意識に基づいて思考を深め、実践的な研究設計に向けた第一歩を踏み出す、充実した時間となりました。
